旧友と塩レモンスプリッツァー

疎遠になった友に連絡をすることにはいつも勇気がいる。それは連絡するきっかけがないのが大半の理由で、そもそも疎遠になったのはその機会が徐々に無くなっていった為である。進学、就職、結婚と互いの環境はどんどん変わっていて、昔のようなフラットな関係ではなくなっている可能性も高い。

大体は相手から連絡が来れば返事をする…くらいの態度を誰もが取っていて、それが余計に疎遠を助長させる。もちろん、そこまで億劫なのならば連絡しなければいい話だが。

 

だいいち、久しぶりに会ったところで何を話すのか。近況の報告、過去の思い出話…その他もろもろの他愛もない世間話をして、そのうちに距離感の違和を感じ始め、過去の関係を取り戻そうと今となってはしんどさを感じる学生時代のテンションに無理くり戻したりして、しまいにはどうしようもない下ネタを話しだし退屈さにさらに輪をかけていた…なんて経験が少なくとも僕にはある。

 

そんなこともあって古い知己と話すときはアルコールが欠かせなくなった。学生時代はこんなものに頼らなくても楽しく話していたはずなのに、なんとも情けなくなったものだ。もちろんアルコール自体は好きだが緊張を和らげるために流し込む酒は嫌いだ。そんなことをするくらいなら一人部屋で呑んでいる方がよっぽどいい。

 

それでも久しぶりに連絡をとった友人がいた。そいつは高校時代なぜか波長があってよく一緒にいた覚えがあるが、いつからそうなったのかは覚えていない。クラスも一度も一緒になったことはないし、そもそもそいつは高2の頃にアメリカ留学に行った。1年して戻ってきたが高校のカリキュラム上学年を一つ下げなければならず、自分たちよりも一つ下の学年になってしまった。

いわゆる留年扱いで、高校時代に年齢の違う人間が同じ学年にいるというのはなかなか奇特な目で見られるものだ。友人も苦労したと語っていた。

 

そんな労苦が見えていながら留学を決意し、果敢に挑んでいった友人を尊敬していた。だから色々な億劫さを超えて会いたいと思わせた。

 

聞けば彼はアメリカの大学の院を出たあとFacebookに就職が決まったらしい。とてつもなく輝かしい経歴に舌を巻いたが、高校時代にそれだけの犠牲を払って挑戦できるヤツだからその報奨は当然なことで、僕も素直に嬉しかった。

 

彼との宴は忘れていた高校時代の空気を思い出させ、自然と会話もはずんだ。楽しさに2軒めを誘い、そこで入ったバーで塩レモンスプリッツァーを頼んだ。

スプリッツァーは白ワインをソーダで割ったもので、そこにたっぷりのレモンとグラスの口に塩を付けたとても爽やかなカクテルだった。

 

 

その味は例えば終始私をおさえつけていた不吉の塊をカーンと、連絡するかしまいかうじうじしていた自分を吹き飛ばすような…そんな塩レモンスプリッツァーがなんだか気に入った。